新型コロナウイルス感染症の治療薬候補PF-07321332の結合様式を想像する、の巻

はじめに

タイトルに「想像」とありますように、個人の想像に基づいて結合様式の画を作製しておりますので、くれぐれも本記事の内容を土台にして大事なことをなさいませんように。。。

さて、ファイザーが現在(2021年5月23日)開発中のPF-07321332ですが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬としての実用化への期待が高まってきているようです。じゃあ何がどうなって効果が出るのよ、と。

PF-07321332 参考資料3 Figure 1 より

調べてみると、PF-07321332は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のタンパク質分解酵素である、Main protease(Mproとかnsp5とか3C-like proteaseとも呼ばれる。本記事では以下メインプロテアーゼと呼びます。)の働きを阻害するということです。

メインプロテアーゼの役目は、ウイルスが感染に成功した細胞の中において、長〜い1本の前駆体として生成されたコロナウイルス自身のタンパク質群(メインプロテアーゼ自身も含む)を適切な箇所でプッチンプッチンと切って、個々の機能的なタンパク質に成熟するのを助けることです。そして、これらのタンパク質群はウイルスの複製にそれぞれ役割を果たすものなので、メインプロテアーゼの機能を止めればウイルスの複製を止めることができるだろう、と。

上図は参考資料1のFig.1 Architecture of the SARS-CoV-2 genome and proteome。Non-Structural Proteinsの帯において薄い青色の矢印で示した部分がメインプロテアーゼが切断する場所。下側の真ん中あたりにはメインプロテアーゼの外観が図示されています。

では、PF-07321332はメインプロテアーゼのどこらへんをどうやることで阻害するのか?

上の図でちょっとヒントが出てますが、そのものズバリを可視化したデータはまだ公表されていないので、現時点で入手できる関連データを基に想像で可視化してみることにしました。いろいろなソフトウェアの使用方法を学習していくなかでの題材としても良いかもと思いまして。

そのうち実データが出てきて答え合わせができるようになると思いますので、楽しみに待っとこう、と。

では見てみます。

繰り返しますが、ゆめゆめ本気にしてはなりませぬ。まあ、細かいところの描画はしていませんし、「ふうん、たぶんこんな感じでくっついてるのね、知らんけど。」くらいのスタンスがちょうどいいかなと。

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PF-07321332のメインプロテアーゼへの結合様式の想像図

PF-07321332はメインプロテアーゼの活性部位を形成しているくぼみに入り込んで、活性中心にある145番目のシステインと共有結合していると考えられます。想像するとこんな感じで。

PF-07321332 imaginary binding mode

メインプロテアーゼは白でSurface表示、145番目のシステインの部分は黄色に着色しています。PF-07321332はStick表示にて、炭素原子はオレンジ、窒素原子は青、酸素原子は赤、フッ素原子は水色で表示しています。水素原子は表示していません。

次に、動きを加えて想像してみます。

*動画の最後のスティック表示の時はメインプロテアーゼの炭素原子はシアン、硫黄原子は黄色に着色しています。

ふうん、なるほど。PF-07321332はこんな感じでメインプロテアーゼの活性中心に入り込んで結合することで、タンパク質分解酵素としての働きを阻害しているわけですね。きっと。

ちなみに今回の画像と動画を作成したデータではメインプロテアーゼが単量体になっていますが、二量体として振る舞うのが本来の姿のようです。

おしまい。

方法

  1. Avogadroを使用し、PF-07321332の三次元構造ファイルを作成しました。分子力学法により構造最適化を行い、その際の力場はMMFF94を使用しました。
  2. 作成したPF-07321332の構造ファイルを使用して、Grade Web Serverにおいてrestraint dictionary file(cifファイル)を作成しました。
  3. rcsb PDBからPDB ID; 6WNP(C型肝炎ウイルスのプロテアーゼ阻害薬であるBoceprevirと新型コロナウイルスのMain proteaseとの複合体のX線結晶構造データ)のpdbファイルとmtzファイルをダウンロードしました。
  4. Cootを使用し、6WNPの構造中のBoceprevirを取り除き、Boceprevirの結合様式を模してPF-07321332を入れ込みました。
  5. PyMolTMで画像と動画を作成しました。

参考資料

  1. Evolution of the SARS-CoV-2 proteome in three dimensions (3D) during the first six months of the COVID-19 pandemic; bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.01.406637
  2. Pfizer unveils its oral SARS-CoV-2 inhibitor; https://cen.acs.org/acs-news/acs-meeting-news/Pfizer-unveils-oral-SARS-CoV/99/i13
  3. Considerations for the discovery and development of 3-chymotrypsin-like cysteine protease inhibitors targeting SARS-CoV-2 infection; Current Opinion in Virology, Volume 49, 2021, Pages 36-40, https://doi.org/10.1016/j.coviro.2021.04.006.
  4. Rational design of a new class of protease inhibitors for the potential treatment of coronavirus diseases; bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.09.15.275891
  5. Protein Data Bank; https://www.rcsb.org/ , PDB ID; 6WNP (2021年5月22日アクセス)
  6. Coot; https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/personal/pemsley/coot/
  7. Avogadro; https://avogadro.cc/
  8. Grade Web Server; http://grade.globalphasing.org (2021年5月22日アクセス)

実施環境

macOS Catalina バージョン10.15.7
Avogadro ver. 1.2.6;分子の構築
Grade Web Server http://grade.globalphasing.org;restraint dictionary fileの作成(2021年5月22日アクセス)
Coot ver. 0.8.9.2;複合体モデルの作成
Open-Source PyMolTM ver.2.4.0;モデルの表示、画像、動画ファイルの作成



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