COVID-19のワクチンの中身を詳しくみてみる、の巻
はじめに
新型コロナウイルスがもたらすCOVID-19に対するワクチンが開発・実用化されてきて、mRNAワクチンとかウイルスベクターワクチンとか、よく目にするようになりました。
で、結局具体的に何を体に入れるのかについて、もうちょっと詳しく知りたいぞ、と。
というわけで、ここでは現時点での主なCOVID-19のワクチンである
・BNT162(ファイザー/バイオンテック)
・mRNA-1273(モデルナ)
・AZD1222(アストラゼネカ/オックスフォード)
・JNJ-78436735(ジョンソンエンドジョンソン)
について、その中身(主に有効成分)の具体的な情報について調べてまとめてみました。
これらのワクチンの仕組み(新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝情報をもつmRNAを脂質に包んだりDNAをウイルスに入れたりしたものを、人の体内に送り込んでスパイクタンパク質を作らせることにより免疫を獲得して新型コロナウイルスと戦える体を作るのだよ、ということ)であるとか、
有効性や安全性のデータであるとかについては、まあそれらはいろいろなところで目にすることができますので、本記事ではワクチンの中身に入っているモノに焦点を絞っています。
なお、本記事は個人が趣味で収集した情報を元に作成していることもあり、正確性を保証するものではございません。正確な情報につきましては原著等をご参照くださりますようお願いします。
はい、それではみてみましょう。(BioRenderを使って図解してみました)
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BNT162(ファイザー/バイオンテック)
RNAワクチンです。
mRNA-1273(モデルナ)
RNAワクチンです。
ADZ1222(アストラゼネカ/オックスフォード)
ウイルスベクターワクチンです。
JNJ-78436735(ジョンソンエンドジョンソン)
ウイルスベクターワクチンです。
とりあえずこんなところでしょうか。こうやって詳しくみてみると多くの工夫が施されていることがわかりますね。。。
メモ書き(ざっくり)
LNP | Lipid NanoParticle。ここではmRNAを内包して分解から守りながら細胞内に送り届ける役割を持つ、脂質分子とポリエチレングリコール(PEG)で構成された遺伝子の運び屋。かつ、エンドソームによるトラップを逃れて細胞内で効率的にタンパク質が発現できるように作られている。 |
BNT162 | 承認されたBNT162b2とは別にBNT162b1というのもあって、こちらも有力なmRNAワクチン候補物質として開発されていた。BNT162b1はスパイクタンパク質のリガンド結合ドメインをコードしている(BNT162b2はスパイクタンパク質全長をコード) 非臨床・臨床試験の結果に基づき、BNT162b2が最終的なワクチン候補物質として選定され開発・承認された。 |
COMIRNATY | BNT162b2のEUにおける製品名。COVID-19、mRNA、コミュニティ(community)、免疫(immunity)を組み合わせた単語。 |
Cap1構造 | mRNAの安定性や翻訳開始に関与。 |
5′-UTR | five prime untranslated region。タンパク質に翻訳されない領域。mRNAの安定化やタンパク質の発現に重要。 |
3′-UTR | three prime untranslated region。タンパク質に翻訳されない領域。mRNAの安定化やタンパク質の発現に重要。 |
polyA | mRNAを安定化させる。 |
N1-methyl-pseudouridine | Uridine(ウリジン;mRNA構成物質の一つ)の類縁体であって、普通に体内に存在している。mRNA中のウリジンをN1-methyl-pseudouridineに置換することで、mRNAを体外から注入した際の免疫反応を回避でき、mRNAを効率的に機能させることができるようになった。 BNT162における「1-methyl-3′-pseudouridylyl」という記述は単に置換基として取り扱っていると思われる(推測)。(WHOの文書中では「N1-methyl-pseudouridine」と記述しているので) |
S protein_mut | スパイクタンパク質のprefusion conformation(感染前に取っている構造)の安定化および抗原性を高めるためにK986PおよびV987Pの変異を導入している。この変異によりスパイクタンパク質の発現量が増え、免疫応答をより刺激する。 |
Y25 | チンパンジーの風邪を引き起こすアデノウイルスの一種。なので既に人類の多くが獲得しているアデノウイルスに対する免疫(Ad5に対する免疫)に制限されずにワクチンの免疫原性を発揮させることができるベクターとして利用される。 |
Ad26 | ヒトの風邪を引き起こすアデノウイルスの一種。血清型26。稀なタイプのため既に人類の多くが獲得しているアデノウイルスに対する免疫(Ad5に対する免疫)に制限されずにワクチンの免疫原性を発揮させることができるベクターとして利用されている。 |
sig | シグナル配列。タンパク質中にある、輸送や局在を担うアミノ酸配列部分。普通は役目を終えると細胞内酵素によって除去される。 |
tPA sig | tissue plasminogen activator(tPA)のシグナル配列で、小胞体への移行シグナルとして一般的に使われる。 |
ALC-0159 | LNPを構成しているPEG脂質分子。PEG2000がついている。 LNP粒子の安定化と粒子径の均一化の機能を持っていて、かつ投与後の血漿タンパク質との相互作用を抑える役割もはたす。 添加剤としての使用前例がなく、長期間の反復投与毒性が評価されていないことから、BNT162の用法・用量に限った使用とすべきであると判断された。 |
ALC-0315 | LNPを構成しているアミノ脂質。陽イオン性。 細胞内移行後のRNAのエンドソーム放出を調整する役目をはたす。 添加剤としての使用前例がなく、長期間の反復投与毒性が評価されていないことから、BNT162の用法・用量に限った使用とすべきであると判断された。 |
DSPC | LNPを構成しているリン脂質。1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine。 哺乳類の細胞膜に存在する天然型の脂質で両親媒性。 特定の製剤または特定の条件下においてのみ使用が認められている添加物であるが、BNT162の製剤特性を担保するために必要とされる。 |
cholesterol | LNPを構成している。コレステロール。哺乳類の細胞膜に存在する天然型の脂質。LNPの構造化、安定化に必要。 |
dibasic sodium phosphate dihydrate | 緩衝剤として添加。 |
monobasic potassium phosphate | 緩衝剤として添加。 |
potassium chloride | 等張化剤として添加。 |
sodium chloride | 等張化剤として添加。 |
SUCROSE | ショ糖。凍結保護のため添加されている。 |
SM-102 | LNPを構成している脂質。陽イオン性。なのでmRNAと静電的に相互作用する。分子として新しい。 |
PEG2000-DMG | LNPを構成しているPEG脂質分子。PEG2000がついている。LNP粒子を安定化する。分子として新しい。 |
Tromethamine/ Tromethamine hydrochloride | 緩衝剤として。Trisのこと。 |
Histidine/Histidine monohydrochloride | 緩衝剤として。アミノ酸のヒスチジン/ヒスチジン塩酸塩。 |
magnesium chloride | 安定化剤として。塩化マグネシウム。英語ではマグニージウムって言うのが日本語と違うから戸惑う。 |
Polysorbate 80 | 非イオン性界面活性剤。Tween 80のこと。乳化剤、可溶化剤、安定剤として広く使われている。食品添加物や化粧品添加物としても利用される(別規格)。インフルエンザワクチンの中にもこれが添加されているものがある。 |
Alcohol | ここではエタノール。ADZ1222では0.5 mL中に2 mgを含む。 |
edetate disodium | 安定化剤として添加。キレート剤。EDTAのこと。 |
hydroxypropyl betadex | 凍結保護剤として添加。シクロデキストリンの一種。アデノウイルスの表面と相互作用をして安定化する。 |
sodium hydroxide | 水酸化ナトリウム |
hydrochloric acid | 塩酸 |
化合物の構造式
参考資料
BNT162関連
mRNA-1273関連
AZD1222関連
JNJ-78436735関連
COVID-19のワクチン全般
構造式
ALC-0159; PMDA文書;SARS-CoV-2 mRNA Vaccine (BNT162, PF-07302048) 2.6.6 毒性試験の概要文 |
ALC-0315; https://en.wikipedia.org/wiki/ALC-0315 |
SM-102; https://en.wikipedia.org/wiki/SM-102 |
1,2-Dimyristoyl-rac-glycero-3-methoxypolyetylene glycol 2000; Assessment report COVID-19 Vaccine Moderna Procedure No. EMEA/H/C/005791/0000 |
DSPC; https://en.wikipedia.org/wiki/Distearoylphosphatidylcholine |
Polysorbate80; https://en.wikipedia.org/wiki/Polysorbate_80 |
Tromethamine; https://en.wikipedia.org/wiki/Tris; Tromethamine |
edetate disodium; https://en.wikipedia.org/wiki/Ethylenediaminetetraacetic_acid (注;ナトリウム(sodium)無し) |
Cholesterol; https://en.wikipedia.org/wiki/Cholesterol |
hydroxypropyl betadex; https://chem.nlm.nih.gov/chemidplus/rn/128446-35-5 |
https://business.xserver.ne.jp/
https://www.xdomain.ne.jp/
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