変異株のN501Yってどこにあるのよ(K417NとE484Kも) 〜新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)〜、の巻
- 2020.12.30
- PyMol 使いかた備忘録
- PyMol, sars-cov-2, 新型コロナ
英国や南アフリカで見つかった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株(それぞれVOC-202012/01、501Y.V2)が取り沙汰されていて、こういう図はよく見かけて、ああ、赤丸あたりに例のN501Yとかの変異があるのね、っていうのは分かったんですけど。。。
もうちょっと詳しく見たいぞう 。
ということで、赤丸の部分に相当する部分をもうちょっと詳しく見てみることにしました。
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スパイクタンパク質(変異前)の受容体結合ドメインにACE2(angiotensin-conberting enzyme2)の断片が結合しているところを捉えた、クライオ電子顕微鏡の単粒子解析のデータを使わせていただいて、PyMolTMで見てみます(PDB id は7DF4です。)
おりゃあ。
PyMolTMでSurface表示しています。スパイクタンパク質はシアン系、マゼンタ系、イエロー系で表示しています(3量体になっている)。スパイクタンパク質の受容体結合ドメインはそれぞれが帰属するスパイクタンパク質の色と同系統でちょっと濃い色をつけています(すごくわかりにくくなってしまったけど)。ACE2の断片はグリーンです。このデータではACE2断片は1個だけスパイクタンパク質に結合してます。
で、まずは問題のN501(501番目のアスパラギン)の部分に赤色をつけてみました(ACE2と結合している受容体結合ドメインのN501だけ)。上の図だと小さすぎてわからんのでちょっと拡大してみます。
おお、ACE2とくっついてる部分の奥の方にN501が見えますね。こんなきわきわの部分だったんですね。やっと詳しい場所がわかりました。
見るからにACE2との結合に関係のありそうな部分なので、N501Yの変異ではスパイクタンパク質とACE2との結合親和性が増している(Cell. 2020 Sep 3; 182(5): 1295–1310.e20. )というのは、ありそうなことだという感じがします。
次に、N501に加えて、501Y.V2において受容体結合ドメイン内の変異が確認されているK417とE484も確認してみました。(これもACE2と結合している受容体結合ドメインのものだけ)。
N501は赤、K417は青、E484は橙で表示しています。
なお、501Y.V2での変異(受容体結合ドメイン内のもの)はK417N、E484K、N501Yです。
なるほど。
今回の、新型コロナウイルス変異株(VOC-202012/01および501Y.V2)のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおける変異についてまとめると下図・下表の通りです。
N501Y | K417N | E484K | ||||
変異前 | 変異後 | 変異前 | 変異後 | 変異前 | 変異後 | |
アミノ酸 名称 |
アスパラギン | チロシン | リジン | アスパラギン | グルタミン酸 | リジン |
アミノ酸 表記 |
N | Y | K | N | E | K |
アミノ酸 物性 |
・中性 ・親水性 |
・中性 ・疎水性 |
・塩基性 ・親水性 |
・中性 ・親水性 |
・酸性 ・親水性 |
・塩基性 ・親水性 |
実験的に 認められた変異の影響 |
・ACE2との結合力が増強 1),2) | ・ACE2との結合力が増強 2) | ・ACE2との結合力が増強 3) | |||
・COVID-19患者由来のSTE90-C11と呼ばれる中和抗体との結合力が減弱 2) | ・N501YおよびK417N変異と共存することでスパイクタンパク質のRBDの構造が変化 3) | |||||
文献 | 1) Deep Mutational Scanning of SARS-CoV-2 Receptor Binding
Domain Reveals Constraints on Folding and ACE2 Binding (Cell. 2020 Sep 3;
182(5): 1295–1310.e20.) 2) The N501Y and K417N mutations in the spike protein of SARS-CoV-2 alter the interactions with both hACE2 and human derived antibody: A Free energy of perturbation study (doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.23.424283; 未査読論文) 3) Molecular dynamic simulation reveals E484K mutation enhances spike RBD-ACE2 affinity and the combination of E484K, K417N and N501Y mutations (501Y.V2 variant) induces conformational change greater than N501Y mutant alone, potentially resulting in an escape mutant (doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.13.426558; 未査読論文) *1)は試験管内実験、2)および3)はコンピューターシミュレーション |
表中の文献の実験データから示唆されていることは、
・ヒトへの感染力が高まる可能性(これは確定っぽいけど)
・変異前のウイルスへの感染や、変異前のウイルスから設計されたワクチンによって作られた一部の中和抗体の効力を低下させる可能性
といったところです。本当のところどうなのか、そのうち確定的なデータが出てくるんじゃないかと思います。
ついでに、今回取り扱った変異に関連するアミノ酸を以下に示します。変異によってアミノ酸が変化すると、それに応じてタンパク質の形や親水性・疎水性の程度、塩基性・酸性などの性質が変化してしまうということですね。そうするとACE2やら抗体やらとのくっつきやすさが変わってきてしまう、とな。
2021.3.26追記 この記事を書いた当時はさほどニュースになっていませんでしたが、このところ(2021年3月)ニューヨークで流行しているB.1.526というのがあり、このB.1.526のうちのほとんどにE484K変異が認められているとのことです。(B.1.526に分類されるものの中にはE484KじゃなくてS477Nを持つものがあります、ごく少数派ですが。ちなみにB.1.526にはN501に変異はありません(まだ変異がないというべきか)。)で、スパイクタンパク質の受容体結合ドメインにおいての変異がE484Kだけであっても現行のワクチンや中和抗体が効果を十分に発揮できない可能性がある(未査読論文からの解釈)とのことなのでちょっと気がかりですね。
おしまい。
*2021.1.29 アイキャッチ画像と記事タイトルの「変異種〜」を「変異株〜」に変更しました。
実施環境
macOS Catalina バージョン10.15.7
Open-Source PyMolTM バージョン2.4.0
参考にさせていただいたサイトや文献
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10087-covid19-29.html
Cell. 2020 Sep 3; 182(5): 1295–1310.e20.
Science 25 Sep 2020: Vol. 369, Issue 6511, pp. 1603-1607
https://news.yahoo.co.jp/byline/minesotaro/20201224-00213969/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/virus/vssi/#/
https://en.wikipedia.org/wiki/Variant_of_Concern_202012/01
Public Health England. Retrieved 22 December 2020.
https://en.wikipedia.org/wiki/501.V2_variant
Tegally et al. (2020), doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.21.20248640 Supplementary Fig S8
https://numon.pdbj.org/mom/246?l=ja
https://pymolwiki.org/index.php/Main_Page
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.02.23.21252259v1
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.24.436620v1
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